『死してなお踊れ』

栗原康著
『死してなお踊れ』

一遍上人の伝記とその思想を伝える本です。

一遍と言えば、鎌倉時代に「踊り念仏」といって、踊りながら南無阿弥陀仏を唱えた、時宗の祖。南無阿弥陀仏を唱えれば誰でも成仏できる、と説いた浄土宗の法然から始まる流れですね。他力本願系。

とはいえ書き出しが「わたしはセックスが好きだ。テクニックはない」ですので、著者の栗原康節に慣れている読者なら、「始まったな」と思えるでしょうが、真面目に一遍の伝記を読むつもりで本を開いた読者はびっくりすると思います。

栗原康の文章は、とにかくグルーブ重視なので、乗れない人にはきついかもしれません。

たとえば、一遍が初めて踊り念仏を唱えるシーン。

「ナムナムナムナム、念仏の声にあわせながら、ピョンピョンピョンピョンとびはねて、ピョンピョンピョンピョンまたはねる。クルッとまわってまたはねる。クルッとまわってまたはねる。」

読んでいるこちらまでトランスしそうな勢いです。

一遍は「時衆」と呼ばれる彼のトライブと全国を巡り、あちこちで念仏を唱えながら踊りまくったそうです。時衆は、被差別民や女性、ハンセン病の人たちも含まれるアナーキーな集団だったとか。

時には「踊り屋」というステージを即席で建てて、何日もぶっ続けで時衆たちと踊ったとか。

40日近くぶっ通しで踊ったこともあるそうです。

20世紀の終わりぐらいから盛り上がり始めた、パーティーカルチャーや、レイブ、トラベラーズといった文化を頭の片隅に置いて読むと、色々と考えさせられるかも。

もっとも彼らは南無阿弥陀仏は唱えませんけどね。

(tintin)